ほめて おだてて 懇願し、そして 最後は威嚇して、子供達をキッズプログラムへ向かわせたのは、10時少し前のことだった。同じ頃、大人用プログラム、シュノーケリング・ボートでGO!に参加すべく、夫は女3人を横目にさっさと支度をして船着場へ向かい、バイバーイ!ブロロロロrrrrr~、とシュノーケリングへ行ってしまった。
「私は早くビーチでのんびりしたいのよ。」
ナツは頭の中で、青く澄み切った空の下、ノンビリとビーチでくつろぐ黒いサングラスをかけて白い帽子をかぶった自分の姿を想像しながら、そう思った。実際のサングラスの色は茶色で帽子の色はベージュ色なのであるが、そんなことは想像する上では関係のないことだ。
「おかあさんも一緒に来てぇ~」という子供達に付き合って、カヤックエリアまでやってきた。
まだ誰も来ていない。
アキの身長を見ながら、お兄さんは、「お姉ちゃんと2人で乗ろうね。」と、二人乗りのカヤックを選んだ。
ハルは、「え~!?1人がいい!」と言いたそうな顔をしていたけれど言わなかった。
アキが1人で乗れないのは明らかである。そこは姉らしさをみせたのであった。
カヤックを水の上に運んでいると、子連れの家族がやってきた。
係りのお兄さんと、小さい女の子が一緒のカヤック。
げ!この家族は両親も一緒に行くのか!なんてこと!
ああ、神様、どうか我が娘たちが「お母さんも一緒に来てぇ~」などとは言いませんように~~~
と 心の中で強く強く祈りながらも、ナツは笑顔を絶やさず、気をつけてね~!いってらっしゃぁぁぁぁい!と一団を見送ったのだった。
一団は、あっという間に遠くへ行ってしまった。
ハルは意外にたくましい。上手に二人乗りカヤックを操っていた。
ぐんぐん離れていく二人をみながら、ナツは今度はとても心配になった。
大丈夫かなあ・・・ 流されていったらどうしよう。 海だから終りがないし・・・
今更心配しても 仕方が無いことである。
気がつくと一団は島の向こう側へ回って見えなくなった。
勇気があるなあ。怖くないのかなあ。
そう。ナツは極度の心配性&臆病者なのである。
そんな自分のことは棚のかなり上へあげておき、子供達を送り出したのであった。
そして、ナツは「ひとり」になった。
念願のひとりになった。
曇り空が広がる、誰もいない寂しいビーチで、念願のひとりになった。
かっこいいウエイターが「何かお飲み物でもいかがですか?」なんて注文を聞きにきてくれることもない。
バヌアツウォーターが唯一の友達である。
ナツは、それでも初志貫徹である。
サングラスをかけ、帽子をかぶり、木の下に置かれているビーチベッドに座り、本を読んだ。
「マシアス・ギリの失脚」by池澤夏樹。
そう、この本はこの旅行中に読み始めた。なんだか今回の旅行と小説の世界が重なる。そんな内容だ。
621ページもあるのだが、まだ398ページまでしか読めていない。旅の終りまでに読みきれるか、ナツは頭上の曇り空を見上げながら暗く不安になったのだった。
**************************
12時になった頃であろうか。大人の集団がシュノーケルから戻ってきた。
おばさま3人グループと夫の4人である。
おばさまが先にやってきたので声をかけた。
「シュノーケルは楽しかったですか?」
1人からは
「ええ、たのしかったわよー。」とお決まりの答えが返ってきたが、
もう1人からは
「あんまりねー。波が高くて船酔いしちゃったわよ。ご主人に迷惑かけちゃったかもしれないわ。」
と、本当に楽しくなさそうな返事が返ってきた。
もう1人は本当に具合が悪そうで、無言でナツの前を通り過ぎていった。
予想外のことにナツはどう反応すればいいのか困ってしまった。
夫に聞くと、自分は楽しかったけれど、オバサマたちは初めてのシュノーケリングで、島に上陸して浅瀬で楽しむタイプのシュノーケリングではなく、船が海上で停泊して、はい、どうぞ、飛び込んでねー、といった形式だったので、どうやって船から降りればいいのかわからずにオロオロするわ、波に揺られて波酔いするわ、散々だったようだ。
ナツは、「ああ、行かなくて良かった。」と心から思った。
*************************
1人で過ごすことに飽きてきた頃、カヤック集団の1人が黒い点となって波の間から現れた。正面から戻ってくるかと思ったのに、左からやってきたのでナツとしては「やられた!」感があった。
目を凝らしてハルとアキが乗っているはずのカヤックを探してみた。
2人が乗っているカヤック。
・・・
わからない。
・・・
2人乗りのカヤック。
・・・
わからない。
・・・
2人の・・・
あら?ハルしか乗ってない。
え~?!アキはどこ!?
まさか落っこちた!?!?!?!
それにしては全員楽しそうに戻ってくる。
アキはどこ!?!~~~~~?
ナツは自分の心臓がドキドキしてくるのがわかった。
ふと、係りのお兄さんを見てみると、なんだかものすごく大変そうに漕いでいる。
よく見ると、彼の前に小さな影がふたつ。
そう。お兄さんは、アキと女の子2人を乗せて必死に漕いでいたのであった。
聞くところによると、行きは流れに乗ってスイスイであったが、帰りはその分 流れに逆らって漕がねばならず、ハルに二人乗りのカヤックを流れに逆らって漕ぐ力はなかった。
お兄さん、たいへんだったね・・・ありがとう。
子供達は、今見てきたことを嬉しそうに報告してきた。島の裏側には洞窟があって、そこに入って上陸して休憩した話。すこし島を探検した話。カヤックを操るのが楽しかった話。自分も1人で乗ってみたいと思ったという話。いやはや、良かった良かった。
*****************************
ランチはゴージャスにレストランで!?と行きたいところではあったが、今回の旅は、これでもう8日目である。
アジア人の舌を持つ人間にとって、洋食に飽きてきたといっても過言ではない。いや、これでもずいぶん西洋化した方ではなかろうか。しかし、やはり彼らにはここら辺でご登場願いたい。
ご紹介いたします!ミョウジョウ(明星)のカップヌードルの皆さんです!!!!!!
その後、部屋の中にアジアのニオイが充満したことは言うまでもない。